2023-01-13 イメージ 短歌連作 切り取って手渡せないものは心 話し疲れてときどき黙り ストーブに腕をまわして抱きよせる温もりの イメージをうち消す 親知らずが生える予定のつるつるの肉には味がしなくて舐める 明晰夢 会わなくなった友だちは夢に出てきて元気にしてた 『八雁』2023年1月通巻67号
2022-11-12 読んでない本 短歌連作 イヤホンをいつか買うけどいつ買うか 朝の雨からいきなり寒い 大通り沿いだけビルが高いのが歩いていけば裏から見える ねむくなるのを待てなくてもう一度電気をつけて読む用の本 寝ころんだまま本を読む体勢にどれも疲れてきてやり直す 一口で噛み切れないでサンドウィッチから引き抜いてきて噛んでいた 読んでない本を返しに図書館へ手づかみにして本だけ持って 階段をのぼるときの一段とばし 降りるときは一段ずつ降りる 八雁2022年11月号通巻66号
2022-11-12 休憩 短歌連作 目のなかの睫毛を指で取るときのほのかな高揚に息詰めて 夜が来ると白黒になる水面と橋を渡ってきてから思う 先っぽがちぎれた足がなびいている七夕飾り 完全な足も 近づけば鳴いているのは分かるから葉っぱの影に鳥を探した 夕方はよく風の吹く大通りの風をからだで押しわけ歩く びんの蓋を開けられなくて休憩にしたテーブルでびんを眺めた 八雁2022年9月号通巻65号
2022-11-12 無題 短歌連作 うなぎ味のかまぼこ/かば焼き味のたれ 知らない人の言うことを聞く ユリノキと書いてあるから歩くたびどれもユリノキ朝にも夜も 帰りには止んでいた雨 葉から降る残りの雨もだんだん止んで 八雁2022年7月号通巻64号
2022-11-12 シャンプー 短歌連作 話しているところの人へ向くのだと顔や目を合わせてみるのだと シャンプーをしたか忘れてシャンプーをしたことのある記憶をたどる 前の人のコートの裾が摺らないか見ていたかった階段を降り あまりにも寒くて乳首まで痛む コンクリートでできている川 八雁2022年3月号通巻62号やや編集