でも歌でなくてもよかったということ鴨川を来ていつか言ったね
でも歌でなくてもよかったということ鴨川を来ていつか言ったね
(でもきみでなくてもよかったということ暮れる川辺でいつか話そう/山中千瀬)
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会わなくても元気だったらいいけどな 水たまり雨粒でいそがしい/永井祐
背の高いあなたの日々へ降る雨は(元気ならいい)私にも降る
(どこか遠くでわたしを濡らしていた雨がこの世へ移りこの世を濡らす/大森 静佳)
すぐ何かけなしはじめるそのときも愛嬌だけはあるよねきみは
「その声は、我が友、李徴氏ではないか?」
とらくんが虎ならわたしは牛だから抱くほかない自尊と羞恥
喫茶店行くと言ったね とびきりのムカつく話を披露してこう
むきになっても
(書きなぐっても書きなぐっても定型詩 ゆうべ銀河に象あゆむゆめ/加藤治郎)
おどろいてえっ、あっていうきみの声をかわいいとか思っちゃってごめんね
(左利きには左利きなりの苦労とかあるのになりたがっちゃってごめんね/中澤詩風『かんざし』2号)
おしぼりを投げつけていけ ゆるさないことはいつでもゆるさないこと
完熟の黄身をめざして茹でているそれでいいのさ神慮は不審/大隅雄太『京大短歌』22号
沸騰しおよそ十分不審ならそれより先は
初めての車のシートを一人でたおす 大人がひとり息をしている/樟鹿織2017.2.9(京大短歌歌会の記録)
車を使うのは大人だと思ってた すぐに(いつから?)大人のじかん
わがうたにわれの紋章のいまだあらずたそがれのごとくかなしみきたる/葛原妙子
勝手かもしれないけれど百首くらい作ってよ紋章をかかげて
お祭りのつらなる道を昇りきてほんとうのお祭りを見た夜
はしゃぎつつなお柔らかい声色であなたとつづく映画のはなし
小籠包か~って笑いがとまらずに食べるはるさめスープ
(幸せになりたい笑っていたいなんていうかな、小籠包だよ/寺山雄介(京大短歌歌会の記録 2017.1.19))
進みたい道を見やればもう親がレールを敷いてくれてたらしい/川崎瑞季『京大短歌』22号
好きなだけ門出と帰還をするだろう京都駅から路線図ひろげ
小林通天閣のうろんな饒舌が絡む短歌とネットと人と
(万国旗つくりのねむい饒舌がつなぐ
アトラクション終えてるような落ちつきの、ふと目をやればよく眠る人
椰子を蹴れば匂いがするよこの感じ、こんなのは人生だからだめ/濱田友郎
こんなのが人生だから年金を職場で払う書類をかくよ
一切の濱田をほめて河原町
(一切の望みを捨てて避雷針/濱田友郎「一切の望みを捨てよ」『京大短歌』22号)
死のはなし、生きる時間が混じり合い私に歌を詠ませる多く
(死ぬ気持ち生きる気持ちが混じり合い僕らに雪を見させる長く/堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』)
柄のない服のあなたのしずけさが気づけば笑みへ移りゆく夜
あなたごときに汚されるわけない夜の月を割るならきっぱり縦に/安田茜
わたしたちを汚すに値する人はいないよ月が見えかくれして
結果的にたどった道をそう呼べば運命なんだぜんぶがぜんぶ
(お団子ののったお皿を持ち上げてお祭りなんだぜんぶがぜんぶ/阿波野巧也『羽根と根』4号)
ぼくらはぼくにもうならなくて三月の、ほんのり見える鴨川デルタ
(ぼくにはぼくがまだ足りなくてターミナル駅に色とりどりの電飾/阿波野巧也『京大短歌』20号)
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鴨川に集ひし日日は移ろへど帰りてをゆかな
(旗は紅き
短歌のための時間があった長浜のsingin' in the rain なんどでも
(あなたのためのぼくでいたいよ夕暮れのsingin' in the rain とめどない/阿波野巧也『羽根と根』2号)
人はみな馴れぬ齢を生きているユリカモメ飛ぶまるき曇天/永田紅
ユリカモメがいつからいなくなったのか分からないまま春だね、行こう
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2017.3.8.京大短歌追い出し歌会の詠草
詞書の宛名は削除・下敷きにした歌の出典をカッコに入れて明記しました。元のバージョンはじきにきょうたんHPの歌会の記録にのると思います。
京大短歌という四年間の吟行でした。ありがとうございます。