無題

ややこしい形に交差した道を赤にして青にする信号

 

写真禁止マークがついた作品もあるのでこっちのは撮っていい

 

つながれてしっぽの丸い白い犬 笑ってるみたいな顔をして

 

会計をカードでできる端末が入って、それがこの前の秋

 

スーパーは三つあるけどせせりってここしか売っているのを見ない

 

酢れんこんになるれんこんを切り入れてボウルの水はゆっくり濁る

 

濡れているタイルを踏めば靴底で音立てながらのぼる階段

 

八雁2021年11月号通巻60号

春の短歌

散歩しに通る小道の植え込みに花が咲いてて造花みたいだ

 

桜並木の色の濃いとこうすいとこ 見下ろして 目をゆっくりこする

 

傘立てにしまうとちょうどよさそうな高さに花の枝は売られて

 

花びらが降るのをふけにみまちがう薄暮の奥に誰か立ってて

 

八雁2021年5月通巻57号に出したものやや編集

無題

電話かけながら通路にしゃがみ込むそうだとしてもきみはどうして

 

毛の生えたひざかけの毛にゆび立てて動かしていく冬だというが

 

朝食と夕食のたび一つずつみかんを食べて減ってくみかん

 

ベルメゾンのカタログの家具たのしそう ひとりぐらししはじめたのはもうずっと前

 

八雁2021年1月通巻55号に出したもの

最低だから

最低だからぜひ見てって言われた映画見て街灯に青葉は透けて

 

本棚に予備の棚板 予備のねじ 横たえて忘れていられたら

 

しめたあとしばらく経てば垂れてくる蛇口をしめて布団を敷いて

 

大通りに車が雨を撥ねていく音がする 雨音はしてない

 

冬コートをクリーニングに出したままだったシャワーを浴びつつ思う

 

長押って呼ぶのもなにか違いそう壁についてる細い横木は

 

夜は雨 棕櫚の穂先の手ぼうきを壁に吊り下げたくて打つ釘

 

八雁2020年9月通巻53号に出したもの

しばらくは

 

包丁を研いでもらってしばらくは買いものも志高くして

 

言いさして今は知らない 冬の日が暮れているのに上がる噴水

 

だいじょうぶなのも後ろめたくなるよだいじょうぶって決め込むことも

 

遊歩道 暗渠の上の 謝られてそのあとなんて言ったんだっけ

 

 

 

八雁2020年5月通巻51号